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北海道ニセコ山麓、廃校の木工房。湯ノ里デスクの田代がお届けする、モノ作り&山暮らし通信です。

北の国へ・・・4

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つい先日、蘭越町の図書館から借りた村上龍さんの新刊、

「55歳からのハローライフ」を読み終えた。

 

かなり切実な物語がつまった小説で、その中の一編に、

僕は思わず唸ってしまった・・!

 

 

再就職を志す男性が、相談先のカウンセラーから、

ある問いを投げかけられる場面。

その言葉によって男性は、

とても辛く、苦しい思いをすることになるのだが・・・

 

 

実は僕も二十年ほど前に、札幌のとあるIT企業の担当者から、

同じ言葉を投げかけられたのだ。

 

すなわち、

 

田代さんは、何ができますか?

田代さんは、何がしたいですか?

 

・・という問いかけである・・。

 

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今から二十年くらい前のお話。

 

時はまさに、インターネット黎明期。

風雲急を告げる、IT 業界の急成長の予感を、

僕はいち早くキャッチしていた・・はずもなく、

むしろ、最も疎いほうの部類であった・・。

 

そんな自分が、

北海道の移住情報誌「北の大地に移り住む」に紹介されていた

新進のIT企業に、なぜ採用の問い合わせをしたのか??

 

当時ニュースステーションで、

孫正義氏が久米宏さんに語った言葉のせいだ。

 

これからは、ハイテクかハイタッチの時代です

 

・・と、孫氏はきっぱりと言い切っていた。

そのどちらでもない中途半端なものは、

淘汰されていくであろう・・と。 

 

ハイタッチとは、より人間的な触れあい感や、

手作り感の伝わる仕事のことを指すらしいのだが、

そちらはあまりピンと来なかった。

 

一方、ハイテクの未来は、

超・疎い僕にすら、勢い伸びていきそうに感じられて・・。

 

ハイテクこそ挑戦の価値あり!と、

軽率な僕は、暗示にかかったらしい・・。

 

そこで、

「未経験者も採用の可能性あり」との記載に魅せられて、

札幌近郊の、あるIT企業に問い合わせてみたのだった。

 

 

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電話に出た担当者は、若い感じの声の男性で、

とても丁寧な対応だった。

 

僕は、その時の自分の状況を手短かに説明した。

 

現在は、東京の書店で働いていること。

結婚を機に、北海道へ移り住みたいこと。

コンピュータのシステムやソフト開発については、

全く知識も経験も無いこと。

 

「わかりました。」と、

その若い担当者は穏やかに、

しかし、はっきりとした口調で言った。

「私たちは、未経験の方も採用する場合がございます」

と。

 

そして、

「それでは」と、誠実な声で続けた。

 

「それでは田代さんは、

 この会社で何がしたいですか?

 田代さんは、どんなことが出来ますか?」

 

 

・・そう問われた瞬間、頭の中が真っ白になった。

 

 

僕は・・言葉に詰まってしまった。

 

そんなことは、今まで考えたこともなかったからだ。

 

 

何がしたいのか

何ができるのか・・・。

 

高校卒業後、18歳で書店に入社し、

26歳(電話の当時)までの8年間、

考えたこともなかったし、人に問われたこともなかった。

 

・・受話器を握りしめ、言葉を手探るように答えた。

 

『僕は・・、書店での勤務しか経験がなく、

 何が出来るのか・・わかりません。

 もう一度考えて、また改めてお電話させていただきます』

 

・・何とかそう言って電話を切った。

 

 

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そこから僕の迷走は始まる。

 

自分が何をしたいのか、

よくわからなくなってしまった僕は、

「やはり自分には、書店の仕事しかイメージできない」

と思い、

とりあえず札幌で知っている、M善や、KのK屋書店に

電話で問い合わせてみたところ、当然、門前払い。

 

他、小規模な書店などに問い合わせてみるも、

中途採用など、200%ありえない話のようだった・・。

 

いったいどうすればいい??

彼女の地元の、地方新聞社は?

それとも、彼女の父が紹介してくれそうなところで、

ダスキンレントオール?

砂川のソメスサドル(革製品)が、

営業マンを募集しているらしい?

・・・。

 

決め手どころか、取っ掛かりすらも掴めず、

北海道移住の夢は、とりあえずお預けになってしまい、

やがて 僕らは、挙式の日をむかえることになった。

 

 

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1994年の10月、僕らは結婚し、

東京の日野市にアパートを借りて、

新しい生活をスタートさせた。

 

結婚して、何よりもうれしかったのは、

もうこれで飛行場でさよならしなくてもいいんだ・・

ということ・・。

 

 

二人での家族生活が始まると、何やかやと、

身の回りの環境や、時間の持ち方などが変化し、

書店の仕事の方も、新規の出店計画が続いて忙しく、

新しい日々が過ぎて行った。

 

そしてもうその頃は、北海道に移り住みたいのかどうかも、

自分ではあいまいになっていた・・。

 

(つづく)